クラシック音楽の巨匠たち——その作品は今なお私たちを魅了してやみません。しかし、そんな天才たちも人間です。時には締切に追われ、時には予想外のハプニングに見舞われながらも、彼らは驚くべき方法でピンチを切り抜けてきました。
今回は、思わず「そんなことがあったの?」と話したくなる、偉大な音楽家たちの”やらかし”エピソードを3つご紹介します。演奏会のプログラムにひと工夫加えたい主催者の方々や、お客様との会話のネタをお探しの方にもぴったりの内容です。
① モーツァルト:二日酔いで名作序曲を一夜で書き上げる
1787年10月29日、プラハ。オペラ『ドン・ジョヴァンニ』の初演当日を迎えた深夜未明、モーツァルトは大ピンチに陥っていました。
なんと、序曲がまだ一音も書かれていなかったのです。
前夜の歓迎会で深酒をし、二日酔いでダウンしていたモーツァルト。しかし初演は待ってくれません。妻コンスタンツェは彼をソファに座らせ、眠気が飛ぶようにパンチ(アルコール入りの温かい飲み物)を飲ませながら、アラジンやシンデレラのおとぎ話を語り聞かせて励まし続けたと言われています。
結果、モーツァルトは深夜から翌朝7時頃までかけて序曲を書き上げ、本番では写譜師がインクの乾かない楽譜を手渡しながら演奏された——そんな伝説が残っています。
フランスの作曲家グノーはこの作品を「非の打ちどころのない作品」と絶賛しましたが、その誕生秘話はあまりに人間臭いものだったのです。
参照リンク: Classical-Music.com: 7 December: Mozart’s hangover-fuelled masterpiece
② ベートーヴェン:コーヒーは1杯につき60粒
「楽聖」と呼ばれたベートーヴェン。その厳格なイメージに反して、彼の日常生活には独特のこだわりが満ちていました。
最も有名なのはコーヒーの淹れ方へのこだわりです。彼はコーヒー1杯につき、必ず豆を60粒、自分自身で数えてから淹れさせていたと言われています。
また、彼の食習慣も独特でした。「パンのスープ」と呼ばれる料理に10個もの生卵を入れて食べるのが好物だったという逸話も残っています。
これらの記録は、ベートーヴェンの個人秘書を長年務め、後に伝記を著したアントン・シンドラーが書き残したものです。ただし、シンドラーの著作は後に「誇張ではないか」という指摘も受けており、どこまで額面通りに受け取るべきかは慎重な判断が必要です。それにしても、几帳面さと破天荒さが同居したベートーヴェンの人柄をよく表しているエピソードと言えるでしょう。
参照リンク: ノーマン・レブレヒト著『音楽逸話集』(The Book of Musical Anecdotes)
③ ピレシュ:本番直前、別の曲を準備していたことに気づく
1998年(一説には1999年)、オランダ。名ピアニスト、マリア・ジョアン・ピレシュ(1944-)はアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団との公開リハーサル形式のランチタイムコンサートに臨んでいました。
指揮者はリッカルド・シャイー。会場は満席です。
オーケストラが演奏を始めた瞬間、ピレシュの表情が強張りました。彼女はその日に備えていた曲とは別の、モーツァルトのピアノ協奏曲第20番の冒頭が聞こえてきたからです。ピレシュが準備してきたのは別の協奏曲であり、完全なすれ違いが起きていました。
「彼女は感電したかのようにパニックに陥った。自分の手がその曲を弾くことなど想像もできなかった」とシャイーは後に証言しています。
しかし、ピレシュはシャイーに「やってみます」と告げ、なんとそのまま予定外の曲を完璧に弾き切ったのです。この驚愕の瞬間は映画監督フランク・シェファーによって撮影されており、ドキュメンタリー映画『Attrazione d’amore』の中で見ることができます。
このエピソードは、プロの音楽家の恐るべき記憶力と適応力を示す伝説として、今も語り継がれています。
参照リンク:
- EL PAÍS: Nostalgia
- San Francisco Classical Voice: Concerto Snafu-Recovery Somewhat Mysterious
- Radio Classique: Ce jour où la pianiste Maria Joao Pires n’a pas travaillé le bon concerto de Mozart… mais le joue parfaitement !
おわりに
いかがでしたでしょうか?
こうしたエピソードを知ると、教科書に載っている「偉大な作曲家・演奏家」のイメージが少し身近に感じられるのではないでしょうか。
本サイトでは、演奏会のフライヤーやプログラム制作をお手伝いしています。今回ご紹介したような豆知識をプログラムのコラム欄に掲載するのも、お客様を楽しませるひとつの工夫です。ぜひご検討ください。
次回もまた、クラシック音楽にまつわる興味深い話題をお届けします。


