定期演奏会21年・475回の秘密|ニュージーランド「木曜夜の1時間」が愛され続ける理由

定期演奏会21年・475回の秘密|ニュージーランド「木曜夜の1時間」が愛され続ける理由

「たった1時間、入場無料」で21年——ニュージーランドの定期演奏会が愛され続ける理由

定期演奏会を長く続けていくことは、並大抵のことではありません。

毎回のプログラム選定、会場の確保、広報活動、そして何より資金繰り——。続ければ続けるほど、様々な課題が浮かび上がってきます。

ところがニュージーランド・オークランドの郊外ハウィックでは、21年にわたり地域に根差した定期演奏会シリーズが続いています。その名も「Thursdays @ Seven」。木曜日の夜7時から、たった1時間。入場料は「ドネーション(寄付)」のみ。

なぜこのシンプルな演奏会は、四半世紀近くも愛され続けているのでしょうか。その秘密を探ります。

21年、約475回のコンサート——数字が示す継続の重み

「Thursdays @ Seven」を2000年から支え続けているのは、地元の音楽家であるキャサリン・ワッツさんとピーター・ワッツさん夫妻です。

二人がこの地域に届けてきたコンサートは、なんと約475回。新型コロナウイルスによる中断を経て、2022年に無事21周年を祝うコンサートを開催しました。

「私たちは再びハウィックで定期的なライブコンサートを提供できることをとても嬉しく思っています」

とピーターさんは語ります。

21年間という歳月は、単なる「長く続いている」という事実以上に、地域にとってこの演奏会シリーズが生活の一部になっていることを示しています。

成功の秘密1:「短くて、気軽に、通いやすい」設計

「Thursdays @ Seven」の最大の特徴は、その手軽さにあります。

  • 時間:木曜夜7時から8時までのちょうど1時間
  • 料金:入場はドネーション(寄付制)
  • 会場:地元のオールセインツ・アングリカン教会(セルウィン・ロード、ハウィック中心部)

「クラシックコンサートに行きたいけれど、夜遅くまではいられない」「チケット代が高くてなかなか足が向かない」——そんな潜在的な聴衆のハードルを、一つひとつ取り除いていった結果がこのシンプルな形式です。

週の真ん中・木曜日の夜は、翌日を考えて早めに帰りたいビジネスパーソンにも、週末の予定に響かずに済む主婦層にも支持されます。1時間という長さは、「ちょっとした息抜き」にぴったり。そして寄付制は、経済的な負担感を取り除くと同時に、「応援したい」と思った人がその気持ちを形にできる仕組みでもあります。

成功の秘密2:「地元の才能を育て、見せる」場

「Thursdays @ Seven」のプログラムを見ると、もう一つの特徴が浮かび上がります。それは、地元ニュージーランドの演奏家や作曲家を積極的に起用していることです。

例えば2022年7月のコンサートでは、「ジェイド・ストリング・カルテット(Jade String Quartet)」が出演。地元で「最も熟練した人気の弦楽奏者たち」と評されるメンバーが、ドヴォルザークの《アメリカ》四重奏曲などを披露しました。

また、プログラムにはニュージーランドの作曲家クレア・カウン(Claire Cowan)の《スウィート・スイート(Sweet Suite)》も含まれていました。カウンは2021年、アオテアロア・ミュージック・アワードでベスト・クラシカル・アーティスト賞を受賞しています。受賞の対象となった作品は、ニュージーランド交響楽団との『ヘンゼルとグレーテル』リリースです。

このように、地元ゆかりのアーティストをフィーチャーすることで、聴衆は「遠くの有名演奏家」ではなく、「自分たちの地域の才能」を応援する感覚でコンサートを楽しめます。演奏家にとっても、育ちの場として機能しているのでしょう。

成功の秘密3:「地域の支援」が継続を後押し

この演奏会シリーズを支えているのは、ワッツ夫妻だけではありません。

21周年記念コンサートの際には、ハウィック・ローカル・ボード(Howick Local Board)がこの記念すべき機会の重要性を認識し、支援を行いました。

地域の行政機関が文化活動を支援する——これは当たり前に見えて、なかなか実現できないことです。長年の実績と地域での認知があってこそ、行政も「支援する価値がある」と判断するのでしょう。

また、会場となっているオールセインツ・アングリカン教会も、21年にわたってコンサート会場を提供し続けている「協力者」の一つです。地域の施設が地域の文化活動に門戸を開く——これもまた、継続の重要な要素です。

「地元に根付く」とはどういうことか

「Thursdays @ Seven」の事例から見えてくるのは、「地域に根付く」とは、特別なことをするのではないという当たり前の真実です。

  • 無理のない頻度(年間21回・3シリーズ)
  • 無理のない長さ(1時間)
  • 無理のない料金(寄付制)
  • 無理のない会場(地元教会)
  • 無理のない出演者(地元音楽家)

どれを取っても「これならできそう」と思えるものばかりです。しかし、これを21年間、約475回も続けてきたところに、ワッツ夫妻と地域の並々ならぬ努力があります。

地域密着の定期演奏会に必要なのは、華やかな企画や豪華なゲストではありません。地域の生活リズムに溶け込み、地域の人材を活かし、地域の機関に支えられる——そんな「当たり前」の積み重ねなのかもしれません。

日本の定期演奏会へのヒント

この事例から、日本の定期演奏会を運営する皆さんが学べるポイントをまとめます。

1. ハードルを徹底的に下げる

「クラシックは敷居が高い」と思っている人は、まだまだたくさんいます。「短い時間」「気軽な料金」というハードル設定は、新規層を取り込む有効な手段です。

2. 地元の才能を発掘・育成する

遠くのプロを呼ぶことだけが良い演奏会ではありません。地元で活動する音楽家や、これから育っていく若手を積極的に起用することで、演奏会は「地域の発表の場」としての役割も果たせます。

3. 地域の協力者を増やす

行政、地元企業、施設——「応援してくれる人」を少しずつ増やしていくことが、長期的な継続の力になります。一度に大口の協賛を集めようとするより、小さな支援を積み重ねる方が現実的かもしれません。

4. 続けることを何より大切にする

21年、約475回。この数字の重みは、1回1回の積み重ねでしか生まれません。「続けること」自体が、やがて地域の財産となり、支援を集める力になります。

まとめ:定期演奏会は「地域のリビングルーム」

「Thursdays @ Seven」は、さながら地域の「リビングルーム」のような存在なのでしょう。毎週木曜の夜になれば、そこに行けば音楽があり、顔なじみが集まり、ほっと一息つける——そんな空間が21年間、途切れることなく続いています。

日本の定期演奏会も、必ずしも大きなホールで華やかに行う必要はありません。地域の教会や公民館で、地元の音楽家が、気軽に楽しめる演奏会を開く。そんな「小さな積み重ね」が、やがて地域の文化を育んでいくのかもしれません。


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【出典】
Watts & Watts: “Thursdays @ Seven Winter Series Concert 1” https://www.wattsandwatts.co.nz/thursdays-at-7-event/thursdays-seven-winter-series-concert-1
Watts & Watts: “Thursdays @ Seven Winter Series Concert 7” https://www.wattsandwatts.co.nz/thursdays-at-7-event/thursdays-seven-winter-series-concert-7
NZ Musician: “2021 Aotearoa Music Awards Winners” https://nzmusician.co.nz/news/2021-aotearoa-music-awards-winners/

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