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CDが17万枚売れた理由|Twenty One Pilotsに学ぶファン経済の作り方

ストリーミング全盛の時代に、CDが16.9万枚売れた理由

「配信の数字が思うように伸びない…」
「ライブにはたくさん来てくれるのに、なぜかCDが売れない…」

そんな悩みを抱えるインディーズアーティストやバンドマンは少なくないでしょう。ストリーミング全盛の時代、多くのミュージシャンが「聴かれている実感はあるのに、収入や手応えに繋がらない」というジレンマを感じています。

しかし、2025年に起きたある出来事は、そんな”常識”を覆す希望の光となりました。

初週売上20万ユニット、うち16.9万が”モノ”だった衝撃

Twenty One Pilotsの最新アルバム『Breach』。この作品は、リリース初週に20万ユニットの総売上(セールス+ストリーミング換算)を記録し、ロックバンドとしては6年ぶりの高初動(2019年のTool以来)、そして彼らにとって2015年の『Blurryface』以来、約10年ぶりとなる全米アルバムチャート1位を獲得しました。

数字だけ聞くと「人気バンドだから当然」と思われるかもしれません。しかし、その内訳に業界関係者たちは驚愕しました。

総売上20万ユニットのうち、実に16.9万ユニット(うちビニールだけで7.2万枚)が”フィジカル”(CDやレコードなどの実物)だったのです。これは現代(1991年にLuminateが電子的に売上追跡を開始して以来)のロックアルバムとして最大のビニール週間売上でもありました。

このキャンペーンの戦略を担ったのが、SonyやAtlantic Records(Atlantic Music Group)、Spotifyでの経験を持ち、現在はブティック・マーケティング会社 Happiness. Marketing を率いるトム・スカルジンスキー(Thom Skarzynski)氏です。

「ストリーミングがダメなら、ファンが欲しいものを作ればいい」

スカルジンスキー氏は、長年業界に身を置く中である「パターン」に気付いていました。

「何百枚ものチケットを売り上げるツアーができるほどの熱狂的なファンを持つロックバンドでも、リリース週のストリーミング換算セールスはわずか1万〜3万ユニットしか獲得できないことがよくある」。

言い換えれば、ライブには来るけど、サブスクではそこまで再生しない。これは決して特殊な現象ではなく、ロックバンドやインディーズアーティストに共通する悩みなのです。

では、どうすればいいのか。スカルジンスキー氏の答えはシンプルでした。

「アーティストチームがストリーミングの数字を大きく動かすのは難しい。でも、ファンにとって意味のある美しいフィジカル(本や記念品など)を作り、それにレコードやCDをセットにしてチャート集計対象にすればいい」。

『Breach』以前の成功:『Clancy』で143,000ユニット

この戦略は、『Breach』が初めてではありませんでした。2024年にリリースされた前作『Clancy』でも同様のアプローチが取られ、初週143,000ユニットを売り上げ、全米3位(Top Album Sales 1位)を獲得。もしストリーミングだけに依存していたら、このアルバムは初週わずか28,000ユニット程度しか達成できなかっただろうと同氏は推測しています。

つまり、フィジカルという”戦略”が、バンドの数字を5倍以上に押し上げたのです。

なぜファンは”モノ”を買うのか?フィジカル経済の本質

スカルジンスキー氏は、この現象を「フィジカルはノスタルジーではなく、現代の成長エンジンだ」と表現します。そして、その本質をこう言い換えます。

「フィジカルは”ファンダムゲーム”だ。それは受動的な消費ではなく、意図、感情、アイデンティティによって駆動される」。

ストリーミングは「受動的消費」です。プレイリストに流れてきたから聴く、作業用BGMとして流す。対してフィジカルは「能動的消費」。わざわざ店舗やオンラインストアに行き、お金を払い、手元に届くのを待ち、手に取り、ジャケットを眺める。この行為そのものが、ファンにとってはアーティストとの関係を深める儀式なのです。

実際、Luminateの2025年年次レポートによると、アメリカのビニールレコード売上は19年連続で成長し、前年比8.6%増の4,790万枚を記録しました(出典:Variety / Luminate 2025年年次レポート)。さらに注目すべきは、ビニールの4割以上が独立系レコード店で販売され、D2C(Direct-to-Consumer:アーティストから消費者への直接販売)が全フィジカル販売の13.6%を占めるまでに成長していることです(前年比2.1ポイント増)。

熱心なファンはどうやって作るのか?「意図的な商品設計」

では、Twenty One Pilotsのチームは具体的に何をしたのでしょうか。スカルジンスキー氏は当時をこう振り返ります(出典:Music Business Worldwide)。

「フィジカルは初日から戦略に組み込まれていた。私たちはキャンペーンをファンの行動に基づいて構築し、異なる役割を持つ意図的な商品エコシステムを開発した」。

ここでいう「意図的な商品エコシステム」とは、単に「CDを出しました」という話ではありません。例えば、熱狂的ファン向けの超高級ボックスセット、ライブ会場限定の特別仕様盤、通常流通用のジュエルケース版、コレクター向けのカラーバリエーション(15種類以上のビニールバリアント)――これらを段階的に製造し、実際の需要に合わせて生産数を調整していく。そして、どの商品がどのように売れているかを執拗に追跡し、キャンペーンをリアルタイムで進化させていったのです。

「最大の教訓は、フィジカルを単なる商品(merchandise)ではなく、文化(culture)として扱うことだ」と同氏は語ります。

2026年、フィジカル市場はどこへ向かうのか

スカルジンスキー氏は、2026年のフィジカル市場について次のように予測します。

「フィジカル、特にビニールは、『トレンド』から『コアなファン経済』へと移行した。2026年以降、フィジカルはさらにD2C、限定版、価格帯の多層化、ツアー連動キャンペーンへと細分化され、よりスマートなインフラによって支えられていく」。

つまり、「とりあえずCDを刷って流通に乗せれば売れる」時代は終わりました。しかし、ファンの感情とアイデンティティに訴えかけ、丁寧に設計されたフィジカル商品には、今なお大きな可能性があるということです。

インディーズアーティストが今日からできること

Twenty One Pilotsのようなメジャーバンドの話は、規模が違いすぎると思うかもしれません。しかし、その思考法はインディーズでも応用できます。

ストリーミングに依存しない:
配信はあくまで「出会いの場」。収益化の主戦場は別にあると割り切る。

ファンの「所有したい」欲求に応える:
ジャケットデザイン、ブックレット、パッケージの質にこだわる。ファンが「これは手元に置きたい」と思える理由を一つでいいから作る。

「買う理由」を設計する:
ライブ会場限定、通販限定、特典付きなど、なぜ今買わなければいけないのか、なぜこの価格なのかを明確にする。

小さく始めて、手応えを見る:
いきなり大量生産は危険。予約販売や少量ロットから始め、ファンの反応を見ながら追加プレスする方法もある。

フィジカルは、アーティストとファンを結ぶ「絆の証」です。

ストリーミングでは可視化しにくい「応援したい」というファンの気持ち。それを形にし、確かな収益につなげるために、戦略的なCDプレスという選択肢をもう一度見直してみませんか。

Twenty One Pilotsの事例が示すように、ファンは本物の関係性を求めています。その関係性を育む道具として、美しいパッケージのCDほど適したものはないのかもしれません。

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